2021/01/24  

日本農業遺産「兵庫美方地域の但馬牛システム」【にほんのうぎょういさん「ひょうごみかたちいきのたじまうししすてむ」】

 

日本農業遺産「兵庫美方地域の但馬牛システム」
【にほんのうぎょういさん「ひょうごみかたちいきのたじまうししすてむ」】
但馬牛システム

但馬牛の放牧

牛籍簿

●先人の熱意が育んだ「和牛生産システム」

“世界の舌を魅了する”神戸ビーフや特産松阪牛の素牛『但馬牛』。兵庫県北西部に位置する美方郡は但馬牛の原産地として知られ、全国の黒毛和牛の99.9%に血縁を持つとされる名牛「田尻号」のふるさとです。

江戸時代から但馬牛の改良に熱心だった美方地域では、同じ谷筋の牛で交配を重ね、優れた特徴を受け継ぐ「蔓牛(つるうし)」と呼ばれる家系群を形成。明治30年頃には、日本初の血統登録の基本となる「牛籍簿(牛籍台帳)」を整備し、一頭一頭を管理する持続可能なシステムを作り出して、黒毛和牛の中では全国で唯一郡内の血統にこだわった育種改良を続けてきました。

さらに、水田では、但馬牛の堆肥を利用し、稲わらを飼料として牛に与える「環境創造型農業システム」が発展したことにより、但馬牛を育てることで、地域の暮らしや農村環境、イヌワシに代表される希少で多種多様な生物資源も守られています。

そうした「環境創造型農業システム」が評価され、平成31年2月に兵庫県で初、畜産部門においては日本で初めて日本農業遺産に認定されました。

今日、私たちがおいしい和牛肉を味わうことができるのは、但馬牛によって育まれた里山の暮らし、生物、伝統、文化、そして先人たちによって脈々と受け継がれてきた育種改良の歴史があるからこそと言えます。昔から家族同様に愛情を注いで育てられ、美方郡の風土が育んできた“農宝”は、次なる未来に向けて継承されています。

2020/01/31  

国家戦略特区/養父市【こっかせんりゃくとっく/やぶし】

 

国家戦略特区/養父市
【こっかせんりゃくとっく/やぶし】
別宮の棚田

別宮の棚田
朝倉山椒
特産の朝倉山椒

●日本の農業の未来を背負う養父市の挑戦

平成26年春、国家戦略特区として指定された養父市。「中山間地農業の改革拠点」という位置づけで、全国6カ所の中のひとつとして、東京圏、関西圏と並んで、養父市が「農業特区」に選ばれました。「国家戦略特区」とは、ある特定の地域に限って様々な規制を免除、緩和し、企業や民間ができるだけ活動しやすいようにする特定の地域のこと。養父市では特区の指定前から6次産業化の構想や、農地所有権移転許可の権限などを持つ農業委員会の機能を市に移譲する提案を行っていたこともあり、農業改革の具体性や姿勢が評価され、農業特区に指定されました。

農業の担い手を増やすだけでなく、「6次産業化」を目指して、養父市では様々な規制緩和を行っています。企業の農業参入が容易でスピーディーに行われるように「農業委員会の権限を市に移譲」。農業生産法人の設立には、役員の中に農業従事者が4分の1以上必要でしたが、1人以上いれば法人化が可能になりました。その他にも、信用保証の対象とすることで融資を受けやすくしたり、これまで農地以外の転用は厳しく規制されていましたが、レストランを建てることも認められ、「6次産業化」への取り組みが進められています。日本の農業の新しいモデルとして、養父市の取り組みが全国的に注目されています。

2015/01/31  

但馬の農業【たじまののうぎょう】

 

但馬の農業【たじまののうぎょう】
棚田

棚田
稲刈り
稲刈り

●良質米の安定生産を目ざす稲作

稲は古代から作られ、中・近世には新田開発が進み、明治以降の品稲改良など稲作技術の進歩によって、わが国全土に米作りがひろがりました。
但馬においては、沖積平地や段丘地、山腹に棚田がひろがり、700~800mの高地にいたるまで、わずかな水があれば、水田が開かれています。しかし、但馬は山岳急峻な地形にあり、水田面積は総面積のわずか6%弱で、兵庫県の12%の2分の1しかありません。近年では水田の効率利用を進めるほ場整備や農道の整備が行われ、機械化農法に変容をとげてきました。台風などの自然災害の被害を少なくする稲作の工夫、病虫害防除対策など技術の進歩により、収穫量が増加、安定してきました。
但馬の穀倉と称される六方田んぼを有する豊岡市をはじめ、円山川沿いに平坦地の多い、豊岡市、朝来市、広長な谷筋や無数の棚田を有する多事全域は多収穫地域に挙げられます。

しかし、反面、人々の食生活の変化に伴う米離れ現象により、米の需要は落ち込んできました。昭和46年の稲作転換対策にはじまり、水田利用総合対策、水田利用再編対策などにより、山間の棚田は相次いで植林され、大豆やさといもなど転作物が、米にとって代わる傾向にあります。さらに、アメリカやタイ、中国などでは、安い価格で米が生産されているため、日本で稲作自立経営では規模拡大によるコストダウンが必要となってきています。おいしくて、安全性の高い米作りが重要とされています。

 

大根畑
養父市杉ケ沢高原の

轟大根畑

●立地を活かした特色ある野菜づくり

但馬の畑地はすこぶる広く、農家の周辺に自給生産を目的とした総合野菜園のイメージがありますが、近年では、高原山野を、国・県の助成を得て造成した野菜団地が脚光を浴びています。また、但馬には開発有望地が多くあり、今後が注目されています。
野菜生産の概要は、豊岡市日高町の広大な神鍋高原、養父市関宮・大屋の南但馬高原などの高冷地野菜、豊岡市、朝来市の平地における多品目野菜が目立っています。中でも神鍋高原のスイカやキャベツ、養父市杉ケ沢高原やおおや高原の大根は表日本市場には欠かせない作物として取引されています。

 

なし園
香美町香住区のナシ園
●ブランド生産をすすめる果樹栽培
但馬を代表する果樹栽培は「ナシ」です。生産の多くを香美町香住区、続いて新温泉町など各地で産地ブランド化をはかりながら、但馬各地でひろく栽培されています。香住のナシ作りはナシの先進地鳥取に似ている適地であることから昭和4年に、兵庫県農事試験場がナシ栽培地委託試験地として、香美町香住区下浜村に58本を植えたことからはじまりました。兵庫県にとってもこの地が「兵庫二十世紀ナシ発祥の地」であるといわれています。その後、急斜面の山を開墾し、次々に苗木を植え育て、糖度が高く肉質の良い甘み豊かで、見て美しいナシづくりをめざし、今日のブランド香住ナシをつくりあげました。

その他の果樹では、ブドウが豊岡市を中心に香住、日高、養父、和田山などで栽培されている他、山野に富んだ但馬の地域性を活かして、柿、栗、梅が各地で生産されています。また、生産だけにとどまらず、体験活動やレジャー、レクリェーションとしての観光果樹園も行っています。